2011年8月13日土曜日

しらが採り 2010.6.23

本日休日につき、かねてからの興味はあっても勇気がなかった「てぐす取り」に挑戦してみた。
原料の白髪太郎はまだまだ無尽蔵に這い回っている。えいっとはさみで切ると中身がでろんとでてくる。うわっスプラッター。で、ラーメンのような細長い器官を取り出し、酢に漬けて引っ張るとしゅるしゅるのびてテグスの出来上がり、なんだけど。
やってみるといろんなことに気づくもの。勇気を出して切るとみるみる体の内部が「でろでろっ」と出てしぼんでしまう。水を入れた風船という感じ で液が出てしまうとあとはほぼ外側の皮しか残らない状況に、「いきものは袋なんだ」ということを改めて実感させられた。そして切った時に黒い体液が出てく るようなものはまだ未熟なのかラーメン器官が見当たらない。黄緑色の場合だと入っている。一見同じに見えるイモムシなのにこの変化ぶりが隠されているのは さなぎから蝶が出てくる時とおなじような昆虫独特の驚きがある。つまり、さなぎになる直前の「下痢便」状排泄が終ったものがテグス用に使えるわけだ。また ラーメン器官も黄色の部分は未熟部分なのか、テグスがうまく取り出しにくい。強く引っ張りすぎると切れてしまうし、ちぎれるとよれてしまう。それでも10 センチ足らずの器官から1mくらいのテグスを取り出すことができた。
乾くとある程度の太さがあるものは確かに透明で丈夫だけど、これで釣をするにはかなり糸同士を結ばねばならない。手間がかかるものなのだなあ という実感と、代用品として発明されたナイロンの便利さを痛感した。細く、透き通った白色の糸はまさに白髪のようでもある。毛むくじゃらのイモムシだから ではなく白髪のような糸を取り出せるから白髪太郎と名付けられたのかもしれない。
ところで先日、近所のおばあちゃんが白髪太郎のことを「しなんたれ」と呼んでいたのに興味を持って、ネットで調べてみると「しらがたろう」の 他に「しなんたろう」と呼ばれていることもあるようで漢字を当てれば「信濃太郎」らしい。「坂東太郎」といえば、関東の大河利根川だが、「信濃太郎」は6 月信濃のほうに湧き出る夏の雲、つまり入道雲の呼び名でもあった。同じ季節に、急速に増えて押し寄せて、人を困惑させるという共通点があるなあ。
けれど、なぜ信濃なのか。「しなんたれ」には少し「信濃のもの」と蔑んでいるようなニュアンスが感じられなくもない。信濃といえば蚕やザザム シを食べる昆虫食文化がまだまだ一般レベルまで名残をとどめている地域、虫まで食べる信濃人のがつがつしたイメージとクスサンの暴食ぶりを重ねあわせてい るのだろうか。さらに妄想をたくましくすれば、神話の時代以前、在来神であるスクナヒコノミコトが天孫族に追われて最後に逃げ込んだ土地がこの信濃の諏訪 とされている(スクナヒコノミコトは諏訪神社のご神体)。つまりシナノタロウとは在来の神が零落した姿、しかし蔑みつつも神として一目置く存在としての呼 び名なのかもしれない。
余談だが今回、パソコンに「しらが」と入力すると「白神」と出てくるのも面白いことだと思った。シラガにしてもシナノにしてもどちらにせよ神に近い。人智を越え、制御できないものを恐れ敬う心、それを人格化してなだめる気持ちがここには働いたのではないだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿